協会の存立を脅かす秘密保護法に反対する
NPO法人 神奈川県日本ユーラシア協会
会長 柴田 順吉
会員の皆様、私たちの協会の前身「日本ソヴェートの友の会」は1934年7月5日、「非常時」の名のもと「治安維持法」の圧力によって<自発的に解体する>ことを余儀なくされた苦い歴史的経験を持っています。友の会神奈川県支部事務局長の田辺潔さんは特別高等警察によって虐殺され、水死体となって山下橋の下で発見されました。
今、これに酷似した状況が私たちの目の前で進行しています。
安倍政権は全ての日本の隣国、即ち中国、韓国、北朝鮮、ロシアとの政治的、軍事的緊張を意図的に強化し、国民に誤った排外的民族意識、軍国主義を植え付け「非常時」を演出しようとしています。
元はと言えば尖閣諸島の紛争の契機は石原元東京都知事が作り出したものです。
政府は尖閣周辺では合法的に公海上を飛行する中国機に対してさえ自衛隊のスクランブルをかけ、マスコミもこれに同調し国民の危機意識を煽っています。日本海上空ではロシアの飛行機に対するスクランブルがすでに日常茶飯事になっています。これらの「防衛」に費やされる膨大な庶民からの税金はロッキード、三菱重工をはじめとする米・日の巨大な軍需産業を潤わせています。
横浜市では去年、全国に先駆けて天皇を神格化し、国家の主権を国民から天皇に逆戻りさせ、戦前の侵略戦争を美化する明白な意図を持った育鵬社の中学校歴史教科書を現場教師や親たちの反対を押し切って強行採決し、市内すべての市立中学校で、約10万人の子供たちが使うようにしました。
今回の秘密保護法は戦前の治安維持法を彷彿させるものです。
第一に、同法は国民の知る権利を制約するものです。重要で広範な国の情報が行政機関の一存で「秘密」とされます。戦前、政府は諸外国の実情を国民から遮断し、日本は天皇の治める神国だからABCD包囲陣に勝利できると私たちを無謀な戦争に誘導しました。
(註)A=America, B=Britain, C=China, D=Dutch
ソ連、ソ日関係の真実を伝え、ソ日両国民の相互理解と親善を目指したソヴェートの友の会の文化活動は国策に反するとして徹底的に弾圧され、機関誌「ソヴェートの友」は発行禁止となり同会は自発的解体を余儀なくされました。秘密保護法が通ればこの機関誌も同様な運命を辿る事に成り兼ねません。
第二に、国民主権の原理に関して国民が大きな影響を受ける重要情報の入手、取材、伝達、報道、意見交換がこの法案によって制約され、国民主権が拠って立つ基盤そのものが失われてしまいます。国会議員の調査活動、国政調査権が制約されます。まさに議会制度の実質的崩壊につながります。与党の議員すらこの法律の処罰対象の例外ではありません。
第三に、戦争放棄、戦力不保持、平和的生存権を定める憲法のもとでは軍事、防衛の情報は特に厳しく精査されねばなりません。「秘密」の妥当性を検証する仕組みもない防衛秘密保護法は憲法の平和主義に反し、許されるものではありません。
この点に関して私たちはロシアと日本との間に戦後68年も経つのに平和条約が結ばれていないという極めて不正常な現状に留意せねばなりません。1956年の日ソ共同宣言は「正常な外交関係が回復された後、平和条約の締結交渉が継続される」こと、およびソ連が歯舞・色丹を日本に「平和条約が締結された後、現実に引き渡す」ことを規定していましたが、1960年の日米安保条約によって米国の日本占領が実質的に継続されたため平和条約は締結されませんでした。従って、日露間の戦闘は終息し、国交は回復されていますが戦争状態は完全には解消されていないのです。私たちのロシア旅行に面倒なヴィザ手続きがあるのも、貿易手続きが面倒なのもこれに起因しています。
米軍の従属的同盟軍である自衛隊の北部方面隊はソ連崩壊後の現在でも陸上自衛隊の中で最大の勢力を持って隣国ロシアに対峙しています。
我が協会がこの法律の影響を受ける可能性は極めて高いのです。
特定秘密保護法は明らかに「軍事立法」であり、憲法の基本原理を脅かすだけでなく憲法第31条の適正手続き・罪刑法定主義に反し全ての日本国民の人権を侵害するものです。
本年4月21日放映の「週刊BS―TBS報道部」で自民党の石破茂幹事長が、「国防軍」の命令に従わなければ軍法会議で「死刑」と発言していたことがそれを雄弁に裏付けています。
2013/10/26-27共同通信の世論調査では、秘密保護法反対が50・6%、慎重審議求める声が82・7%に達しました。日本ペンクラブ、日本弁護士連合会、全国労働組合連合会などをはじめとする多くの団体や学者・文化人が反対を表明しています。
全国の憲法・メディア法学者と刑事法学者が10月28日、国会に提出された特定秘密保護法案に反対する二つの声明を発表し、東京・永田町で記者会見し、憲法学者の稲正樹国際基督教大教授は「憲法を踏みにじる前代未聞の法案だ」と批判、刑事法学者の村井敏邦一橋大名誉教授も「刑罰の対象が明確ではなく、実行行為がなくても処罰される」と語りました。声明には、憲法・メディア法学者142人、刑事法学者129人の計271人が賛同しています。
歴史に学ばないものは同じ誤りを繰り返します。そして、厳しい言い方かもしれませんが、このような悪法を知りながら傍観するものは客観的に見れば共犯者なのです。
私たち協会員はユーラシア諸国民との相互理解、親善、世界平和のため、それぞれの条件に応じて平和を愛する全ての国民とともに柔軟かつ積極的にこの悪法に反対して行動しようではありませんか。
以 上