太平洋戦争の遠因となった日露戦争(2)
NHK大河ドラマ「坂の上の雲」第三部が2011年1月から始まりました。
NHKはこの企画意図を「『坂の上の雲』は、国民ひとりひとりが少年のような希望を持って国の近代化に取り組みそして存亡をかけて日露戦争を戦った『少年の国・明治』の物語です。…中略…この作品に込められたメッセージは、日本がこれから向かうべき道を考える上で大きなヒントを与えてくれるに違いありません。」としています。
しかし、このドラマは司馬遼太郎が原作で「事実に基づいて書いた」と述べているにも拘わらず、非常に一面的で、日露戦争を戦争遂行者の目線で見たものであり、総合的、科学的に見たものでは無い上、彼自身が後に謙虚に認めているように肝心の事実関係にも重大な間違いが多いのです。
このテレビドラマは「戦争する国・日本」への、NHKという公共機関を使った、日本支配層の意図的なプロパガンダと断定せざるを得ません。
以下に幾つかの問題点を挙げます。
原作者司馬遼太郎は「日露戦争はロシアからは侵略戦争、日本からは祖国防衛戦争であった」と「坂の上の雲」で書きました。しかし、後に彼はこれが間違いであったことを認め、生前この作品の映像化を「迂闊に映像に翻訳すると、ミリタリズムを鼓吹するように誤解されるおそれがあります」として強く拒み続けました(1986年NHK教育テレビでの対談)。
この本を書いた4年後1986年の著作「ロシアについて」(文芸春秋)では「日露戦争のあと、他国に対する日本人の感覚に変質が認められるようになった。在来保有していたおびえが倨傲にかわった。」(p.246)とも言っています。
日本が祖国防衛戦争というからにはロシアが日本に攻撃を加えて来、これに対して日本が自国の自由と独立を防衛するため戦うのでなければなりません。
奇襲攻撃を仕掛けた日本の明治天皇も、奇襲を受けたロシア帝国皇帝ニコライ二世も共に宣戦の詔勅で「祖国防衛戦争」を国民に訴えていました。然し、戦いの場はいずれも自国ではなく韓国、中国でした。
戦争の口実はいつの世にも「武」即ち「戈(ほこ)を止める」=防衛、安全保障です。
当時、両帝国は没落しつつある清国の領土「満州」とその属国である韓国における利権をめぐって対立し、交渉中でした。これは自国の国外における権益の争奪戦です。決して祖国防衛ではありません。他国侵略、植民地争奪戦です。日本は満州と韓国両方の権益を要求し、ロシアは「満州」の権益を自国に、韓国の権益を日本に分割することを提案していたのです。
~次号に続く~
(柴田)