暑かった8月のロシア語日本語交流会は「夏の自慢料理」でした。
暑かった夏も去り、爽やかな秋の季節になりました。秋、10月の交流会のテーマは「自分の趣味」です。
人に自慢するほどのものではないけれど、例えばジョギング、サイクリング、旅行、切手の蒐集、素描など、自分が好きなこと、これまで続けてきたことを、ロシア語と日本語で10分以内でお話するのはいかがでしょうか。
ウリヤノフスクやウラジオストクで、今はやっている趣味を知ることができるかもしれません。しゃべることは無いという人も、聞くだけの人も歓迎です。
参加のお申し込みは10月20日までに、メールか電話でお待ちしています。
日時・場所:10月30日(日)18:00(日本時間) Zoomミーティング
ことのはじまりは『ソ連歌謡』を執筆した蒲生昌明さんとの出会い。彼に協会での講演を依頼したとき、自分よりもっと面白い話を知っているとして紹介されたのが西野肇さんでした。西野さんはレントゲンフィルムに音源を彫り付けた、いわゆる肋骨レコードの収集家としてトークイベントも行っておられた方。さらに、蒲生さんはモスクワ放送チーフアナウンサーの日向寺康雄さんにも声をかけてくれました。すごい面子が集まったところで、モスクワの日本語放送が“続いていれば”80周年になるという2022年の4月に、モスクワ放送にかこつけたイベントをやりましょうということになったのでした。
ところがロシアのウクライナ侵攻が始まり、「お祝いどころじゃない」雰囲気になり開催延期に。3か月たっても戦闘状態は収まる様子がなく、周年行事の意図から外れないうちに開催することを決心したのでした。
やるからには、ただの祝賀行事では終わらせたくない。フェイクニュースが取りざたされる昨今、ソ連とロシアの「情勢」にも目を向けたい。そういう意味も込めて、トーク内容も一新しました。それぞれのトークに関連した写真・動画サイト・音源の収集はもとより、3人の登壇者に一貫したテーマを通すためのやりとり、思いついたアイディアを生かすための技術カバーなど、残された時間で片づけなければならないことが山積しました。
また、「女性の活躍にも目を向けなきゃ」との進言により、サプライズゲストを呼ぶことにしました。最も重要な女性ゲストは、西野さんの永遠のパートナーであるガリーナ・ドゥトキナさん。日本に招聘する計画もありましたが、こちらは情勢により叶いませんでした。またご本人の体調の問題でZoomによる参加も難しく、事前にビデオメッセージを送ってもらうということになりました。
他にもモスクワ放送に関わった多くの女性アナウンサーがおられましたが、いわゆる「末代」にあたるいちのへ友里さんに白羽の矢が。開催延期前はロンドン在住でしたので、時差が大きな問題でしたが、なんと8月に日本へ帰国されたということで緊急に現場へ来てくださることになり、名実ともにサプライズとなったわけです。
こうしてモスクワで苦楽を共にされた面々と、半世紀に渡って放送をリスニングされてきた名リスナーが一堂に会するイベントが実現したのでした。
思い起こせば、モスクワ放送と歩んだ人々の歩みは、「友好・交流」の一言では終わらないものです。表裏一体である信頼と背信の薄氷を踏む道のりを、丹念に歩んできたものであるといえましょう。現在、再び薄氷の関係に戻ったのかもしれませんが、何が信頼に値するかは、50年前のパイオニアたちがすでに示していると思います。イベントの関係者はそれを「西野精神」と呼んでいました(笑)。トーク内容については、全国版の記事を参照してください。最後に、開催までお力添えいただいたすべての方に心より感謝します。
(滝沢)
※当イベントのライブ録画はFacebookで配信しましたが、後日正式版を当協会YouTubeチャンネルに公開する予定です。どうぞお楽しみに!
横浜ロシア語センター・NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会チャンネル
第137期に向けてロシア語教室公開日を2回にわたって開催しました。
9月17日は野口福美先生担当の教室案内に5名、大山麻稀子先生担当の入門体験講座に6名の参加者がありました。終了後は織田桂子先生と新任の菅原彩先生も加わって体験講座参加者の相談に応じ、その後野口先生がオンライン・対面各1名の中・上級レベルの方と学習相談を行いました。
14時からは会員・受講者の皆さんの親睦交流会を行いました。交流会では長びくコロナ禍の中で飲食はできませんでしたが、対面・オンライン両方で16名が参加、ロシア語と日本語でのスピーチやプレゼンを行いました。
この日は参加者のうち3名が受講を決め、他にクラス見学をしてから決める予定の方も2名いらっしゃいました。
10月1日は野口先生担当の教室案内に1名、菅原先生担当の入門体験講座に2名、会員の大山ひろみさんに講師をお願いし、初めて試みたカリグラフィー体験講座は対面9名、オンライン8名の参加者があり、大変好評でした。
この日の午前中は1回目と比べて参加者が少なかったのですが、1名の方がその場で受講を決めて下さいましたので、2回目も開催した甲斐がありました。
第137期は10月15日(土)より順次開講します。入門~上級、会話、演劇、文学など、今期も初心者から上級者まで様々な学習レベルに合わせた内容の講座を用意しました。見学も30分×3クラスまで可能です。詳しくは当センターホームページをごらんの上、ぜひお気軽にお問い合わせ・お申し込みください。
待望のウクライナ語コースを新規開講します!ジェルーリ・ラリーサ先生を講師に迎え、中澤英彦著・白水社刊「ニューエクスプレス・プラス ウクライナ語」等を使用。水曜夜に初心者向け講座(対面)、金曜夜にロシア語履修者向け講座(オンライン)を予定しています。詳細はホームページをごらんください。
● 4級 10月29日(土) 14:00~
筆記、テクストの朗読
● 3級 10月30日(日)14:00~
筆記、聴取、テクストの朗読
● 2級 10月29日(土) 10:00~
筆記、聴取、会話
● 1級 10月30日(日)10:00~
筆記、聴取、会話
横浜会場:横浜平和と労働会館4F
ロシア民族楽器を本格的に習える当教室は毎月2回土曜日にレッスンを行っています。
9月のレッスンは1日、15日です。詳細はお問い合わせください。
時間:14:00~17:45の間、各45分
講師:北川 翔(バラライカ奏者、北川記念ロシア民族楽器オーケストラ主宰)
会場:横浜平和と労働会館6階会議室
(2022年9月30日現在)
ロシア語第136期の終盤になり、教室公開日のイベントやロシア語、ウクライナ語の体験講座などが開催され、新規入会が続いています。とりわけ新しくウクライナ語講座が開設されましたので、9月末までに4名の方がウクライナ語講座に受講を申し込まれ、3名の方が入会されました。ロシア語入門クラスでも、9月末現在で2名の方が入会され、計5名の新入会者をお迎えいたしました。
一方、「毎日、ロシアのウクライナ侵攻のニュースばかりで、気落ちしてしまい、少し休みたい。」との連絡や「神奈川から引っ越すので退会したい」とのことでお二人が退会となりました。そのため、新入会者5名、退会者2名で、9月30日現在では、8月末より3名増えて224名となっています。
(木佐森)
NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 | 2022/9/30 | ||
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単位:円 | |||
摘 要 | 本年度当該月収入 | 前年度当該月収入 | 対前年度増減 |
一般会計 | 210,050 | 224,900 | -14,850 |
教育事業 | 2,438,530 | 2,417,950 | 20,580 |
一般事業 | 106,563 | 64,797 | 41,766 |
合 計 | 2,755,143 | 2,707,647 | 47,496 |
摘 要 | 本年度当該月支出 | 前年度当該月支出 | 対前年度増減 |
一般会計 | 521,564 | 543,620 | -22,056 |
教育事業 | 445,240 | 311,790 | 133,450 |
一般事業 | 36,386 | 45,068 | -8,682 |
支出合計 | 1,003,190 | 900,478 | 102,712 |
当該月収支 | 1,751,953 | 1,807,169 | -55,216 |
累計収支計 | 1,205,053 | 1,016,030 | 189,023 |
22年9月の財政状況は、昨年21年の9月と同じように推移しました。第137期ロシア語講座継続の授業料収入が243万円で、昨年も同じく241万円の収入がありました。これから、12月にかけても、昨年と同じように推移すると、昨年決算と同じく、赤字すれすれの決算となる恐れがあります。第137期講座の収入に期待をするばかりです。
(木佐森)
黒パンとの相性も抜群で定番となっていた本品ですが、漁獲高規制などにより工場が閉鎖し生産中止とのこと。残念ですが今のうちにお求めください。
賞味期限間近のため、協会事務所で3個まとめてお買い上げの方には950円に値引きいたします。
賞味期限:2022年11月21日
原産国名:ラトビア
ライ麦モルトを使用し、じっくり長い時間をかけて発酵させる伝統のレシピで作られた黒パン。
おだやかな酸味と甘み、表面に載ったコリアンダーの独特の爽やかな香りが特徴です。
本場の味をぜひお楽しみください。
賞味期限:2022年11月20日
原産国名:ラトビア
体感的には夏からいきなり冬になったかのような日もあり、これからは温かいスープもおいしく味わえそうです。
本格的な伝統ウクライナボルシチ5-6人前が手軽にできる定番商品。水、肉、じゃがいも、キャベツを別途ご用意ください。
日本語レシピ付。
賞味期限:2024年5月11日
生姜とレモンのビタミン豊富なジャムです。温かいお茶にして飲んだり、紅茶やアルコールのアクセントとして加えても。
原材料名:砂糖、レモン、しょうが、ペクチン
賞味期限:2023年7月21日
購入は協会事務所または当協会通販サイト「うにべるま~ぐ」にて。
ウクライナ侵攻で部分的動員令を発令したことを受け、若者を中心とした反対派のデモが活発になっています。そして9月30日には4州露併合記念コンサートが赤の広場で開催され、バスコフ、ガスマノフ、マイダノフ、リューベなどの相変わらずな親プーチン派が集結(前のクリミア併合8周年記念コンサートの時と比べて、有名アーティスト数が少なかったかも)。そんなロシアから、2022年9月第3-4週のRussia Airplay Chart TOP10をお送りします。今月も10曲中4曲が新曲!
9位にヴィクトルとダーシャの夫婦コンビ、ラサの≪Погудим≫(ハミングしよう)がランクイン。
7位にジョニーの≪Никак≫(どうやっても君を愛せずにはいられない)がランクインしました。≪Аллея≫(路地)のスーパーヒットが記憶に新しい。新曲は9月上旬にリリースされたばかりなのに現在YouTube再生回数は猛スピードで300万回超え!
3位に≪Life≫(ライフ)でヒット、彗星の如くデビューしたズィヴェルトのダンスミュージック≪Wake Up≫(目覚めよ)がランクイン。話題となっているMVには今が旬の豪華アーティストも参加して、ズィヴェルトの活力溢れるダンスナンバーに合わせてキレキレのダンスを披露。ズィヴェルトの音楽産業界での社交幅の広さ、実力と影響力を感じさせます。
2位にこちらも活力溢れるフィラトフ&カラスのディープハウス系ダンスミュージック≪Движ≫(動け)がランクイン。それぞれソロでの活動後、2012年にユニット「フィラトフ&カラス」が結成され、ムミィ・トローリやガヤゾフ兄弟、ブリトーなどの有名アーティストらとのコラボも多いです。
今が旬なアンナ・アスティの新曲≪По барам≫(貴方はバーをハシゴして)が3ヶ月連続首位キープ。新曲は7月上旬にリリースされYouTube再生回数は現在4800万回超え!おめでとうございまーす!:-)
(Tophit.ru, Russia Airplay Chart 2022年9月16日~22日/MOPA)
画像は https://vk.com より
※全文、チャート、PV視聴はユーラシア芸能ブログでどうぞ。
(ライナル・サルネット監督作品、2017年、ポーランド=オランダ=エストニア)
11月に”死者の日”を迎えるエストニアのある秘められた寒村。戻ってきた死者は家族を訪ね、一緒に食事をし、サウナに入る。精霊、人狼、疫病神が徘徊する中、貧しい村人たちは“使い魔クラット”を使役させ隣人から物を盗みながら、極寒の暗い冬を乗り切るべく、各人が思い思いの行動をとる。そんな中、農夫の一人娘リーナは村の青年ハンスに一途な想いを寄せているが、ハンスは領主であるドイツ人男爵のミステリアスな娘に恋い焦がれる余り、森の中の十字路で悪魔と契約を結んでしまうのだった。
美しいモノクロームの映像美でその甘美な悪夢を描いた、東欧ダーク・ラブストーリー。
10月29日より東京・イメージフォーラムにて公開。
9月23日 於:下北沢 小劇場B1
新型コロナ感染拡大で、昨年の公演が直前で中止となったハツビロコウの「かもめ」。今年に入り、ロシアのウクライナ侵攻をきっかけとして、日本におけるほとんどの劇団がロシアと関係のある演目を行わなくなった。この「かもめ」は、ようやく演じられることになったチェーホフものである。
ハツビロコウの「かもめ」は、戯曲の視点をずらすということで、原作にない世界を描き出す。一種のパラレルワールドと言ってもいい。
一つが冒頭の劇中劇シーンだ。大女優アルカージナの息子で作家志望のコースチャが、新しい演劇を作ると息巻いて書いた戯曲を、恋人ニーナと演じる場面。「人もライオンも鷲も雷鳥も」で始まる長いセリフをコースチャが語る。ニーナは「世界に遍在する一つの霊魂」に成り代わった身体表現に徹する。それは現代でいうなら「舞踏」というジャンルの表現手法だろうが、アルカージナの世代にとっては理解不可能な踊りにしか見えないだろう。かくして、コースチャの目論見は失敗し、アルカージナの愛人トリゴーリンとニーナが接近していくことになる。
そして最大の見せ場がラストシーン。コースチャが自殺をする一場である。多くの劇団は戯曲のとおり、コースチャの死は銃の発砲音で表現される。しかしハツビロコウの「かもめ」は、あくまでもコースチャの目線で進行。元恋人ニーナが、彼女を捨てたトリゴーリンへの愛を語って去ったあと、彼は絶望に駆られて銃を持ち出す。銃口を喉に当てるかこめかみに当てるかを迷うシーンを作り出し、ついに自分で引き金を弾く。再会で盛り上がるアルカージナたちの談笑は幕の袖に置かれている。彼らは銃声を聞いたのだろうか。戯曲にあるところの、医師ドールンが部屋を見に来るシーンは削られている。コースチャの絶対的孤独が強調される衝撃的な演出だ。
こうしたいくつかの効果的の演出をつなぐものが、場面転換の音楽である。オペラの一節やベートーヴェンの「月光」が繰り返し使われる。特に「月光」は、舞台である地方の湖に映し出された月の光に、想いを伝えられない登場人物たちの心の内を託すかのような雰囲気を作り出している。チェーホフという「ロシアの作家による戯曲」という既成概念を排し、幾重にも重なる片思いの堆積をメランコリックに描き出した舞台は、何度でも反芻したくなる普遍的なもの。あえて「喜劇 四幕」にとらわれない姿勢が成功した。
(文・滝沢 三佐子/写真・ハツビロコウ提供)
トルコ民族舞踊などのレパートリーを舞台芸術として追及している舞踊団OTANTIK BUNKAの主催で行われた、歌と踊りのパフォーマンスショー。今回は日本とコーカサス地方および中央アジアの国々の国交樹立を記念して行われ、それにふさわしい様々な国や地域の舞台芸術が披露された。
まずはアゼルバイジャン出身のピアニスト、サファロバ・グルナラさんの演奏する日本の歌曲メドレー。日本の歌がコーカサスのフィーリングで奏でられることの不思議。そしてアゼルバイジャンの作曲家アミロフによる小品組曲や民謡も、懐かしさを感じさせる作品だ。
第2部からいよいよ舞踊パート。アゼルバイジャンの5拍子のリズムと男女ペアになるストーリー展開豊な舞踊が目を引く。続くウイグルのラブソングは旋回を多く伴って軽やかに踊られた。そして、ジョージアのモダン演目「ナニラ」は、長いベールの衣装も動作も柔らかく美しい。そのほか、ウズベキスタンやチェチェン、アルメニア人商人をモデルにした愉快な踊り「キンタウリ」など盛りだくさん。
第3部は再びアディゲ、アゼルバイジャン、ジョージア、トルコなどの民族音楽を、生演奏でたっぷり聴かせる音楽+歌のパート。とても広い地域をカバーするテーマだったが、日本でこのようなセレクトが楽しめるのは貴重だ。
(文:滝沢 三佐子/撮影:アトリエ ナム)
11月10日(木)午後7時開演で「器楽の祭典」というコンサートが行われます。
出演はバラライカ奏者の北川翔、アコーディオン奏者の太田智美、BalalaiQuartet、バラライカ・ドムラ教室の生徒も参加する北川記念ロシア民族楽器オーケストラです。
デュオ演奏有り、カルテット演奏有り、オーケストラ演奏有りの面白い構成になっています。演目はバイカル物語、トロイカ、行商人、などロシア民謡ほかです。
会場は上野駅前の東京文化会館小ホールです。チケット代金は大人5000円(税込)で全席指定です。
なお会員の方に前列から2列目の4席(B12~15)を4000円で用意しています。この席をご希望の方は事務局にご連絡下さい。(先着順。チケットお渡しと代金のお支払いは、当日受付で)
(田中)
9月17日 於:かながわ県民センター
ウクライナ東南部4州のロシア編入が強行され、今年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は新たな局面を迎えた。その前に、横浜で行われたアムネスティ・インターナショナル日本主催によるウクライナでの取材講演会に参加してきたので、その要旨を報告する。
報告者であるジャーナリストのクレ・カオル(Kaoru Ng)氏は、ロンドンで遺伝子情報学を修めた香港人。2019年の香港民主化活動を機にフォトジャーナリストに転身し、ベラルーシでの民主化運動も取材。日本にも滞在していたことがあり、日本語堪能である。
今年2月18日にウクライナに入国し、キーウをはじめ、ブチャ、チェルニウツィ、ハルキウ、ドニプロ、サポリージャなどを取材し、その状況を写真に収めた。今回はその写真を投影しながら、現地で起こっている戦争と人権の状況について報告した。
これまで日本の報道と異なる点は、ウクライナ人男性のすべてが強制的に従軍させられているのではない、ということだ。軍経験のない若者は、前線には送られないそうだ。だが、多くのウクライナ人が「武器を捨てれば平和が来るのか」ということに「否」の考えを表明しており、タタールのくびきなどによる教訓などもあり、ここで戦っておかなければどんな目に遭うかわからないという危機感が大きいという。
Kaoruさん曰く、ロシアは引くに引けない状態にあり、ウクライナの「生存を賭けた戦い」に比べてロシアのそれは「面子を守る戦い」ととらえ、最終的にはロシアが軍を引くことが望ましいという。しかし、その状態になるには、少なくとも2年はかかるだろうとの意見を示した。
また、ウクライナ避難民を多く受け入れているウクライナ西部では賃貸アパートの値段が高騰しており地元民の不興を買っている。さらに避難民への高待遇を行っているポーランドでも、長期の受け入れに疲弊が見られるとも報告。今の状況が続けば、早晩ウクライナ人への保護が非難される時がくるかもしれないと危惧した。
ウクライナ語とロシア語使用の問題も、両国語話者の対立を国民に意識させてしまったと言い、政治的問題が文化にも波及しているとのことだ。
(滝沢)
先日、ある週刊誌で「ロシア海軍は、今でもモールス信号を使っていることを知り、驚いた」といったことが書かれていました。
若い世代で「モールス信号」(モールス符号)を知らない人の為に、少しご説明を。「モールス信号」とは、指でキーを叩き、短音と長音の組み合わせで、それを文字代わりに通信するものです。よって、判読はややこしく、その中で緊急事態を知らせる「S・O・S」は、かのタイタニック号遭難を機に世界中に広まったとされます。「S・O・S」は緊急事態をわかり易く知らせる為の単なる符号の組み合わせ。(何かの頭文字を組み合わせたものなどではなく、特に意味はないそうです)世界中の海で使われていた「モールス信号」ですが、1999年に廃止され、現在は人工衛星を使った「GMDSS」に代わっています。これは緊急時に自動的に遭難信号を位置情報と共に出すシステムです。
さて、おそらく軍事上の事情から今も「モールス信号」を使っていると思われるロシアですが、ロシアは「GPS」も使わず独自で開発した「GLONASS」という衛星測位システムを持っています。決してロシアが時代遅れという訳ではないのです。カーナビ、携帯電話、スマホ、船、列車、飛行機などの運行…その他、様々な用途に今や無くてはならない「GPS」は、もともとはアメリカが軍事用に開発したもの。他国が「GPS」に頼ることに懸念を抱くのも無理はないのかもしれません。ちなみに中国も「北斗」を持っています。
さて、「S・O・S」信号もむなしく撃沈されてしまったロシア海軍『モスクワ』。今も、海の底から、そして世界中の人々から「S・O・S」が発信されているような気がします。
(とくなが なつみ)
文と絵 ユリ・シュルヴィッツ/訳 さくまゆみこ/あすなろ書房/定価1,650円
本書は、ポーランドが生んだ偉大な童話作家、ユリ・シュルヴィッツの名著である。
1935年、ポーランドのワルシャワで生まれた彼は、1939年ドイツのワルシャワ侵攻により難民となる。狂気と空腹の時代の到来である。家族で各国を転々と逃げまどううち難民の中でも食べれるものとそうでないものがいることに気づいていく。
ある朝、父が食を求めて市場に行くが、彼はパンの代わりに一枚の大きな世界地図をかかえこんできた。パンは父のもっていったわずかなお金では買えず、一枚の地図を買ったのだ。そして、がっかりする息子の部屋に貼ったのだ。
そこから、幼いユリ・シュルヴィッツの心の旅は始まるのだ。戦乱の中をさ迷う旅ではなく、想像の翼をはためかせる旅である。悲しみの旅ではなく、不可思議な喜びの旅であった。
まず地名の響きの不思議さに驚き、ペンシルベニア、フクオカ等をどんな街かと想像してみる。色にあふれた一枚の地図から赤道直下の砂漠を想像し砂にもぐりこむ足の感覚まで気持ちいい。雪山も地図から想像し、山登りをしつつ冷たい風も愉快に思う。大都市を思い描き、光る窓を数えているうちに眠ってしまう愉快さ。この一枚の地図は何と豊穣なのであろうか。
ユリ・シュルヴィッツが亡命先のトルキスタンで過ごした数年の日々は、彼をこよなく豊かにした。そしてイスラエル、パリ、ニューヨークへ渡り、2年間絵画学校へ通う。そして今や童話作家として大御所となりつつある。
本書は、自伝的要素の高い創造力の大事さを身をもって教えてくれる名著である。ホローバックサイズの大型本である。2009年のコルデコット賞銀賞受賞作であり日本絵本賞 翻訳絵本賞に輝く。全ての平和に通じる創造力の原点は、こんなところにある。お父さんは生きるに大事な魔法の時を、一枚の地図としてくれたのだ。
(中出)
ロシア語には地名に対してその土地の住民または出身者を示す呼び名もある。例えばモスクワっ子なら男性形はモスクヴィチ、女性形はモスクヴィチカ、複数形はモスクヴィチーという。
ロシアでは姓の確立以前にも、国勢調査や課税台帳では、自分や親の洗礼名やあだ名や職業のほか、他所から来た者にはこの出身地を表す呼称を記して個人を識別する方法を取ることもあった。
ヤロスラヴリでの1671年の国勢調査の例を挙げてみよう。ちなみに当地の住民の呼称はヤロスラヴェツ/ヤロスラフカ/ヤロスラフツィだが、この都市の名は「ヤロスラフの(町)」を意味する古代スラヴ語の所有形容詞に由来すると聞けば合点が行く。
イリューシカ・サヴォスチヤノフ・ロマノヴェツ(サヴォスチヤンの子でロマノフのイリューシカ)、イワーシコ・ヴォログジェーニン(ヴォログダのイワーシコ)など自分の出身地を示したものと、プロンカ・ネレフチャーニノフ(ネレフタ出身の父の子プロンカ)、ヴァースカ・ペルミャコーフ・イズヴォーシシク(ペルミ出身の父の子で御者のヴァースカ)など父の出身地が書かれたものがある。
本人がネレフタ出身ならネレフチャーニンだがその子はネレフチャーニノフに、本人がペルミ出身ならペルミャークだがその子はペルミャコーフになる。職業名由来の姓と同じく、出身地名由来の呼称も本人の代に姓として定着すればその土地の住民や出身者の意味になるが、子孫の代なら所有形容詞の接尾辞-ов(オフ)がついて「~の子」を示す父称の意味になるというわけだ。
出身地による呼称の語尾には色々な形があるが、現在姓になっている-ов/-ев, -ин(オフ/エフ、イン)という語尾を持つものの性や数による語尾変化は規則的である。(本紙3月号参照)
出身地の呼称を姓にした人々は一定数存在するため、ある地域への移住者がどこからやって来たのかを、文書での情報がなくても読み解くこともできる。
1858年のシャードリンスク郡(現ウラル連邦管区クルガン州)イワーニシシ郷ではこんな記録があった。ヴォログジャーニン(ヴォログダ出身者)273名、メーゼンツェフ(メゼーニ出身者の子)75名、ヴァジェーニン(ヴァーガ川流域出身者)70名、クングールツェフ(クングール出身者の子)23名、ウスチュジェーニン(ウスチュグ出身者)16名。すなわち彼らはヨーロッパロシア北部からの入植者であると分かる。
地名そのものでなくても、ある土地に特徴的な比較的珍しい姓がそこから離れた土地で同時に見つかれば、人々の移動の足跡をたどることもできる。
1897年の全ロシア国勢調査では、現クルガン州のトボール川中流域沿岸にメニシコフ姓とドストヴァーロフ姓の持ち主が数千人見つかったが、同時にバイカル湖東岸でも出現していた。またトボール川への道程に当たる旧トゥリンスク郡(現スヴェルドロフスク州)、オハンスク郡(現ペルミ地方)でも発見され、さらに北西方向に戻って同じ姓を探すと、アルハンゲリスク州・北ドヴィナ川下流の村落に行き着いた。点を線で結ぶと、元々ヨーロッパロシア北部に住んでいた人々が南東のウラルへ移り、さらに東のバイカル湖の向こうへと旅した道筋が浮かび上がったのである。
珍しい姓の一群がヴォルガ川下流とウラル山脈の東側で同時に現れたり、ベラルーシ辺りに起源を持つ姓がオリョール州とヴォルガ下流域、さらにシベリアでも見つかったりするなど、こうした例は各地で見られた。ソ連時代には、学者に向けてシベリアにおける移住の足跡を研究する資料として姓を活用するようにという呼びかけも行われたそうだ。
(横嶋 冬美)
参考文献:
В. А. Никонов ≪ИМЯ И ОБЩЕСТВО≫ (1974), ≪ГЕОГРАФИЯ ФАМИЛИЙ≫ (1988)(V. A. ニコノフ『名前と社会』『姓の地理学』)
ニジェガローツキー・ドヴォール「ロシア各地の都市住民の呼称」2022-09
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作品は自分のオリジナルか著作権者の許可を得たものに限ります。
デジタル画像はテキストファイルに貼りつけず、別ファイルでお送りください。
また、ペンネームや注意事項があればお書き添えください。毎月末締切、翌月15日頃に発行見込み。
※投稿記事は誹謗中傷や公序良俗に反するもの以外ほぼ原文のまま掲載していますが、必ずしも協会としての見解を反映するものではありません。