日時:6月26日(日)14時~
場所:横浜平和と労働会館5階教室
講師:ヴァリナ・ヴァレリヤ
参加費:一般2,500円、会員2,000円
夏休みにおばあちゃんのダーチャで子どもたちが大好きだったロシアのパンケーキ3種を作ります。
既に満席になりましたので、参加ご希望の方はキャンセル待ちになります。
開催報告は次号以降に掲載予定です。
先月号に5月22日の開催予告を掲載した現代ロシア映画鑑賞会「ロシアン・ブラザー」は、諸般の事情により延期されました。
また、6月19日に開催予定であった映画DVD「ひまわり」鑑賞会も都合により中止とさせていただきます。
参加を予定されていた皆様には心よりお詫び申し上げます。
5月29日(日)に第79回全国ロシア語能力検定試験・4級と3級が実施され、横浜会場では午前10時から、横浜市従会館3階第1~第3会議室で行われました。受験者は4級が20名出席で4名が欠席、3級は17名出席で9名が欠席となりました。前回第78回は、4級は27名が出席、欠席7名。3級は37名出席で6名欠席だったので、79回は78回に比べると、受験者は4級が29%の減小、3級が半分以下の45%とになっています。特に、3級の欠席者が、今回は34%の欠席率と高くなっています。受験者数の減少と欠席率の高さは、ウクライナ問題に起因しているのか心配されます。
恒例の受験者アンケートは、受験者全員が回答してくれました。
4級受験者のアンケートで目立つのは、「ロシア語の学習場所」です。これまでは「通学している学校」が一番多かったのですが、今回一番多かったのは「独習」55%になっています。そのためか、「検定試験を知ったのは」、「ホームページ」からが50%になっています。「学校の先生から」は30%に落ちています。もちろん「横浜ロシア語センターを知らなかった」が60%になっています。
3級は、「独習」と「大学」が40%づつで並んでいます。横浜ロシア語センターも60%の人が知っていました。ロシア語学習の目的は「個人の趣味」が80%になっており、ロシア語はもはや、ビジネスや仕事から離れ、個人的趣味の領域に入ってしまったのでしょうか。
記述欄にもいろいろ書いてくれました。
〇「これからロシア語のニーズは、どんどん高まってくると思っています。話者が他のメジャーな言語に比べて少ないのは、逆に、武器になるということだと思っているので、これから、さらに勉強頑張ります」(4級)
〇「ロシアという国家に非があれど、言語には罪はないと思い、大学で学んでから今まで受験しなかった検定試験を受けようと思いました」(4級)
〇「ロシアのことが好きで始めました。現在、複雑な心境ですが、ロシア語、ロシアのことを好きでい続けたいです」(4級)
〇「ロシア語を学んで、様々な考えに触れることができて、とても嬉しいです。今日、ここで試験を受けることができてよかったです」(4級)
〇「ロシア語を話す機会を、イベントを開催するなどで設けてほしい」(3級)
〇「ベルリッツで個人授業を受けているが、現在「ロシアの日本人」というテキストを使っている。内容が多いが、少し古いので、改訂してほしい」(3級)
(木佐森)
第4回ロシア語日本語交流会が、5月29日(日)18:00(日本時間)からZoomで行われました。参加者はウリヤノフスクから8名、ウラジオストクから3名、東京から2名、横浜から7名の計20名です。
今回のテーマは「ロシア語及び日本語を学ぶ上で難しいと思うこと」でした。ロシア側も日本側もそれぞれ「勉強している中で疑問に思ったこと」が率直に、真剣に話されました。ウリヤノフスクのリューバ先生は漢字の利点は何にでも繋げられるとして「円高」「来日」の漢字を掲示して、説明しました。オクサナさんは漢字を書いて部屋の壁に貼っています。日本側からは、ロシア語学習で難しいこととして「完了体・不完了体」などが出されました。横浜ロシア語センター長の野口さんがそれを次のようにまとめてくれました。
1. 不完了体だけでは動作について正確に理解されないのか?(читать - прочитать книгуの例で)
ロシア側の解答:「読了した」(完了)のに、ただ「読んだ」(不完了)と言えば、いつどこまで読んだのか分からないので、その本について相手と話をした方が良いかどうか話し相手は迷うだろう。会話が続かなくなる。
2. 受け身の表現についての質問
例1. 男の子は先生にいたずらを叱られた。
(1) Мальчик был отруган учительницей за шалость. 会話では不適当?
(2) Учительница отругала мальчика за шалость. 会話ではこちらが多く使われる?
ロシア側の回答:(1)の文の被動形動詞短語尾形の表現は文章語であり、硬くて味気ないので会話では使われない。
例2. 少女は最後の順番で救出された。
(1) Девушка была спасена в последнюю очередь. 会話では不適当?
(2) Девушку спасли в последнюю очередь. こちらの不定人称文の表現が会話では普通?
ロシア側の回答:文章語の(1)は、情報を伝えているだけであるが、(2)の会話で多く使われる不定人称文はイントネーションで話し方が多様になり、話し手の感情が伝わる。「女の子は最後であったかもしれないがとにかく救出してもらえて良かった」との意味を伝えたければ、それを伝えることができるが、そのような気持ちは(1)では伝わらない。ロシア語会話では、主語が省略される不定人称文や無人称文が多いので表現が豊かである。
問題は、和露訳するときに、日本語の「男の子は叱られた」では男の子が主語なのに、ロシア語訳では「先生が男の子を叱った」と先生が主語になることにある。しかし、会話では主語が違ってきても被動形動詞の受身表現にするよりも自然で、その方が良いだろう。
5/28(土)午後、関内ホール小ホール。舞台上の朗読劇に、200人の観客は感動に包まれました。沖縄戦の少年ゲリラ兵の悲劇を朗読したのです。朗読したのは日吉台中学校演劇部の生徒たちでした。今の自分たちと同い年の少年兵の悲劇を我が身に感じて朗読していました。その中の一節です。「なぜ本来守るべき子どもたちを、国は戦争に利用していったのか」この一節を当協会顧問の柴田順吉さんは体を震わせて聞いておられました。
柴田さんは、この朗読劇の後、演壇に立たれました。中学一年生で横浜大空襲を経験したこと。これは朗読劇の少年ゲリラ兵、朗読した中学生たちと同じ年齢です。今、89歳の柴田さんはこの演壇に立った時には、77年前のことがつい昨日のように思われたのでしょう。猛火の中を逃げ回り、海に逃げれば安全だと思い、海に飛び込んだら焼夷弾の燃料は水よりも軽く、水の上を火が渡ってきたこと。まるで、目の前に再現するかのような語りでした。さらに、中学一年生に軍事訓練を強制したこと。「お国のため」に立派に戦って死ぬこと。これらを叩き込まれたことを語りました。そして「この世で最大の罪は戦争です。平和な時なら人を2~3人殺したら死刑です。しかし、戦争なら殺せば殺すほど英雄になれるのです」と訴えました。今、ロシアとウクライナの戦争でも空襲の悲劇があります。爆弾は相手を選んで落とされるのではありません。軍人ではない女性や子ども、お年寄りにも遠慮なく落とされます。それらの悲劇と重ね合わせて、77年前の横浜空襲を語り、平和への願いを語りました。
残念だったのは、空襲の話に時間がかかり、ウクライナ情勢には話が及ばなかったことです。司会の方も残念がっておられました。機会があれば、ユーラシア協会内で学習会を持ちたいものです。
(関戸)
現在、入門~上級、会話、特別講座の計23クラス(対面授業13、オンライン授業10)が開講中ほとんどは学期途中からの編入も可能です。ぜひお問い合わせください。中級以上は担当講師がレベルチェックを行う場合があります。
講座やお申し込み方法の詳細は横浜ロシア語センターホームページにて。
ロシア民族楽器を本格的に習える当教室は毎月2回土曜日にレッスンを行っています。
今後のレッスン予定は7月9日、7月23日になります。8月は調整中です。詳細はお問い合わせください。
時間:14:00~17:45の間、各45分
講師:北川 翔(バラライカ奏者、北川記念ロシア民族楽器オーケストラ主宰)
会場:横浜平和と労働会館6階会議室
来る7月3日(日)にバラライカ・ドムラ教室の生徒の発表会があります。総勢15人が1人ずつ演奏します。横浜教室の4人も出演します。また北川翔さんの演奏もあります。興味のある方は是非ご来場ください。
発表会の詳細は以下の通りです。なお私はトップバッターで演奏します。
(田中)
日程:7月3日(日)開場13:30 開演14:00
入場料:500円
会場:音楽センターホール(東京都新宿区大久保2-16-36 JR山手線新大久保駅から徒歩8分)Tel 03-3208-8377
(2022年5月31日現在)
5月は、新たに「ロシア文学読解講座」や既存講座に編入された方が3名いらっしゃいました。そして、退会された人はありませんでしたので、5月31日現在の会員数は227名です。
(木佐森)
NPO法人神奈川県日本ユーラシア協会 | 2022/5/31 | ||
---|---|---|---|
単位:円 | |||
摘 要 | 本年度当該月収入 | 前年度当該月収入 | 対前年度増減 |
一般会計 | 151,100 | 95,950 | 55,150 |
教育事業 | 339,830 | 700,200 | -360,370 |
一般事業 | 121,016 | 132,404 | -11,388 |
合 計 | 611,946 | 928,554 | -316,608 |
摘 要 | 本年度当該月支出 | 前年度当該月支出 | 対前年度増減 |
一般会計 | 649,600 | 442,846 | 206,754 |
教育事業 | 335,468 | 390,570 | -55,102 |
一般事業 | 68,315 | 79,710 | -11,395 |
支出合計 | 1,053,383 | 913,126 | 140,257 |
当該月収支 | -441,437 | 15,428 | -456,865 |
累計収支計 | 1,273,119 | 884,728 | 388,391 |
2022年5月の財政状況は、4月にロシア語講座の学期が始まり、5月は、順調に継続しています。教育事業収入が、昨年に比べ36万円少なくなっているのは、昨年は5月開講の特別講座が2講座ありましたが、今年は開講がなかったためで、その分、ロシア語授業料が少なくなっています。
一方、一般会計支出が昨年に比べ20万円多くなっているのは、本部会費(4月~6月)15万円を5月に支払ったためです。
ロシア軍によるウクライナ侵攻が始まって3ヵ月が経過しましたが、窪田典子様から「ウクライナ市民支援金」として2万円のご寄付をいただきました。お礼と感謝を申し上げるとともに、ウクライナ市民支援のために活用させていただきます。ありがとうございました。
(木佐森)
ライ麦モルトを使用し、じっくり長い時間をかけて発酵させる伝統のレシピで作られた黒パン。
おだやかな酸味と甘み、表面に載ったコリアンダーの独特の爽やかな香りが特徴です。
本場の味をぜひお楽しみください。
賞味期限:2022年9月16日
原産国名:ラトビア
リンゴのピュレと砂糖と卵白で作ったケーキのような焼き菓子。甘酸っぱい濃厚な味わいと独特の食感が特徴です。
ブラックカラント、ワイルドベリー、シーバックソーン、いちご、プルーンのジャムを加えたもの各種(200g)を協会事務所で販売中。
原産国名:ロシア
製造者:「スタールィエ・トラディーツィイ」(ロシア・トゥーラ市)
透明感のあるきれいな色、穏やかな甘さと優しい香りが特徴の「はちみつの女王」と呼ばれているアカシアはちみつ、さわやかな香りとマイルドな味わいが特徴の、自然に咲く木々の花や樹液から集めた百花はちみつ、どちらもお勧め。
日々の食卓に是非どうぞ。
原産国:ウクライナ
内容量:270g
チェボクサル市の菓子メーカー製。
内容:オトロミー(キャラメル入ウエハースチョコ)、ドブリャンカ(ヘーゼルナッツ入チョコ)、プロンビローク2種(アイスクリーム味&ヨーグルト味ウエハース)、スリーモ(アーモンド入クリスピーチョコ)、フトローク(ミルククリームウエハース)、アデル2種(バニラ味&チェリー味アーモンド入スイーツ)
商品は協会事務所で取扱中。営業時間:平日・土曜12時~18時(外出の場合もありますので、確実を期す時は事前にご予約ください)
全国あちこちから反戦・撤退コールが上げられても権力で押し潰そうとするロシアから、2022年5月第2-3週のRussia Airplay Chart TOP10をお送りします。今月も10曲中4曲がチャートイン!
共にウクライナ出身のロリータとラコスタのデュエット曲≪По-другому≫(違うやり方で)が10位にランクイン。
サヴィチェヴァの新曲≪Майский дождь≫(5月の雨)が9位に登場。2014年に現夫で作詞担当のアルシノフ氏と結婚。娘はポルトガル在住の父親の両親と共に暮らしており、近くサヴィチェヴァも居住許可取得のために動きだしました。
アルティク&アスティの女性Voが2021年秋からユニット脱退、名前もアンナ・アスティに変え、ソロ活動を始めました。露芸能界の帝王キルコーロフと組みリリースしたデュエット曲≪Хобби≫(趣味)」が初登場7位にランクインしました。いまロシアの彼方此方でよくかかっています。
ベラルーシ出身のアレフノの新曲≪Ждёт меня любимая≫(大好きな君が僕を待っている)が初登場2位に。本曲は戦勝記念日の前日5月8日にリリースされ、戦地で最愛の人を思う兵士の歌です。チャートでの位置が、露国内での侵攻に対する考え方そのものを表していそうですね。
アルティク&アスティと接戦を繰り広げ、ガヤゾフブラザーの≪Малиновая лада≫(ラズベリー色のラーダ)が再び首位奪取しました。MVには本人たちが登場し、ラズベリー色に染まる道のりを国産車ラーダで時間旅行しています。昨年暮れにリリースされ大人気、現在YouTube再生回数は2月にチャート初登場したときの3倍超にあたる9800万回!おめでとうございまーす!:-)
(Tophit.ru, Russia Airplay Chart 2022年5月6日~12日/MOPA)
画像は https://vk.com より
※全文、チャート、PV視聴はユーラシア芸能ブログでどうぞ。
毎年5月に欧州で開催されるEUROVISION。「ダンシング・クィーン」で世界的に有名になったABBAや、「タイタニック」で世界中の人々を虜にした歌姫セリーヌ・ディオンを輩出した歴史的な歌の祭典。ユーラシア勢はソ連崩壊後から参加しているが、今年は劇的な展開となり、予想外の結果が導かれた。
先ず2月24日から実施された露のウクライナ侵攻により、EUROVISION主催者である欧州放送連盟は「大会規則と欧州放送連盟の価値観に基づき、ウクライナにおける未曾有の危機を考慮し、今年の大会に露からのエントリーを含めることは、大会の評判を落とすことになる。」と懸念し、露は当大会への参加・放送・投票が不可能となった。
また侵攻を支援しているベラルーシについては、昨年のベラルーシ代表者であるGalasy ZMestaの曲「Ya nauchu tebya (I'll Teach You)」の歌詞が「政治的抑圧と奴隷制を祝う」ような内容で、ベラルーシ国内の政権反対派を揶揄すると問題視され、多くのEUROVISONファンが強く否定し、これにより出場権喪失となった。今後の出場は未定とのこと。
一方侵攻されたウクライナでは当初、女性ラッパーのアリーナ・パシュが代表を決めていたが、露により一方的に併合されているクリミア半島へ旅行していたことが判明したため、パシュ自身がEUROVISION参加を拒否。代表選で2位だったKalush Orchestraをウクライナ代表として大会へ送った。
今回のEUROVISONにユーラシア勢からは、ウクライナ、リトアニア、ラトビア、モルドバ、アルメニア、アゼルバイジャン、ジョージア、エストニアの8カ国が出場することになったが、決勝に残ったのは全25カ国のうち6カ国だ。投票にはテレビ投票と審査員投票の2種類がある。テレビ投票では、テレビ視聴者が自国以外のアーティストに投票し、数が多い順に12, 10, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1のポイントがアーティストに付与される。また審査員投票では、審査員が自国以外のアーティストに投票し、優良順に12, 10, 8, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1のポイントが付与される。そんな得点方式だが、今年は大旋風が吹いた。ウクライナがテレビ投票ではEUROVISION史上最高点の439ポイントを得た。更に審査員投票で192ポイントを得たことで総合点が631ポイントとなり、圧勝したのだ。2位のイギリスと165ポイントも差をつけた。
国 名 | 出場アーティスト | 出場曲 | 得 点 | 順 位 |
---|---|---|---|---|
ウクライナ | Kalush Orchestra | Stefania | 631 | 1 |
モルドバ | Zdob și Zdub and Advahov Brothers | Trenulețul | 253 | 7 |
エストニア | Stefan | Hope | 141 | 13 |
リトアニア | Monika Liu | Sentimentai | 128 | 14 |
アゼルバイジャン | Nadir Rustamli | Fade to Black | 106 | 16 |
アルメニア | Rosa Linn | Snap | 61 | 20 |
ラトビア | Citi Zēni | Eat Your Salad | 予選落ち | |
ジョージア | Circus Mircus | Lock Me In | 予選落ち |
毎回得点ばかり気になるが、今回は投票・集計終了までに公開されるEUROVISIONの歴史ダイジェストにも注目すべき点があった。ロシア勢の画像が殆ど出てこなかったことである。ウクライナ侵攻に対して賛成または黙秘していることが推測される。ガガーリナ(2015年準優勝)が一瞬のみ。代わりに侵攻開始当初から反対を表明しているラーザレフ(2016年3位、2019年3位)が驚く顔が2度も紹介され、50年露入国禁止措置を受けたヴェールカ・セルジューチカ(2007年準優勝)やジャマーラ(2016年優勝)らのパフォーマンスも懐かしく放映された。
来年のEUROVISIONはウクライナで開催となるが、困難な場合は2位か3位の国での開催となる。
敬称略 (MOPA)
(原題:Piano ビータ・マリア・ドルィガス監督作品、ポーランド、2015年)
わずか41分のドキュメンタリー作品だが、内容は濃く重い。ポーランドの女性監督が撮影したもので、背景について一切の説明がないため、事前にオレンジ革命以降のウクライナ情勢を復習していくことをお勧めする。
2014年、親ロシア政権に抗議する市民デモが独立広場(マイダン)で発生、多くの犠牲者を出しながら当時のヤヌコビッチ大統領はロシアへ脱出し、「ユーロ・マイダン革命」と称されるに至った。
この騒乱のさなか、誰のものかわからない一台のピアノがバリケードの材料にされようとしていた。それを阻止したのは音楽学院の女学生・アントワネット。彼女によって演奏されるショパンやベートーベンに対し、親ロシア政権側からは大音量でロシアポップスが流された。激しく対抗しあう音楽。やがてピアノの周りでは、ウクライナ国家が流れ、世界的音楽家が演奏し団結の一助を担う。アントワネットをはじめ、このピアノに関わる人間は政権側から「ピアノ過激派」と呼ばれるようになっていった。
暴力的な機動隊にも食べ物を配る女性、イロヴァイスクの激戦で親友を失った兵士の回想、演奏することに恐怖を感じるプロのピアニストなど、ピアノの音色に促されて語る人々の言葉も聞き逃せない。
人びとの団結を恐れた警察が、ウクライナの国旗色にペイントされたピアノをどこかへ運び去る。8年前のウクライナは過去ではない。今に続く尊厳を守る闘いを今こそ振り返ろう。
横浜シネマリンで公開 6月11日~6月17日、7月2日~7月8日
(文:滝沢 三佐子)
(原題=Navalny、ダニエル・ロアー監督作品、2022年、アメリカ)
毒殺という古風な暗殺手法が生きるロシア。プーチン政権成立以降、この古風な手段が何度も立ち現れた。2006年、元スパイのリトビネンコが放射性物質ポロニウムで殺害された。元ウクライナ大統領ユシチェンコは選挙中ダイオキシンをかけられ、射殺された女性ジャーナリストのポリトコフスカヤも、ベスラン学校占拠事件で仲裁に向かう途中毒を盛られた。記憶に新しいのはロシアとイギリスの二重スパイ、スクリパリが娘と神経毒ノビチョクでやられた。
そして本作の主人公、弁護士で反体制活動家のアレクセイ・ナワリヌイは、ノヴォシビルスク出張からモスクワへ帰る途中、機内で毒を盛られ重体となった。途中降機したトムスクで辛くも解毒剤を投与されたが、危険を感じた妻が強引にベルリンの病院へ移送し命を取り留めた。
ドイツでリハビリに励む中、コンタクトしてきたある人物。それは犯罪調査を独自に行う組織「べリング・キャット」のジャーナリストで、ブルガリア人のクリスト・グロゼフだった。彼は自費を投じて情報を入手し、ナワリヌイと動線が一致する何人かのFSB(ロシア連邦保安庁)メンバーを割り出していた。はじめは疑っていたナワリヌイも、ノビチョクが検出されたというロシア外務省の報告で、クリストと共同戦線を張る決心をする。
事件のもみ消しを図る当局に対し、自ら犯人の確定を行うために、ナワリヌイは容疑者たちとの直接コンタクトを試みる。その様子はナワリヌイのSNSアカウントでも見ることができるが、実際に映画スクリーンで観ると、その臨場感はただものではない。特に化学者クドリャフツェフとの問答は最高にエキサイティング。ナワリヌイの悪運の強さもあっぱれだが、この手口にはあきれてものが言えない。
「暗殺発注者」は特定できなかったものの、プーチン大統領の動静に合わせて動画をネットで暴露したナワリヌイ。モスクワへ戻った彼は、空港到着と同に拘留され、今も獄中にいる。1万人以上を集めた不当逮捕への抗議運動では、市民が次々に逮捕された。ナワリヌイの汚職撲滅基金も活動停止に追い込まれ、さらにウクライナ侵攻によってロシア政府批判が非合法となった。ナワリヌイにとって非常に厳しい状況だ。
本作の冒頭で監督はナワリヌイに「もし殺されたらどんなメッセージを残したいか」と問う。ナワリヌイは作品のラストシーンで、「自分たちのもつ大きな力を自覚しなければ、悪人が勝つ。諦めずに行動しつづけろ」と答えた。ナワリヌイチームのSNS動画とマスコミ側の動画を駆使し、人間・ナワリヌイと彼の家族や不屈のチームメイトを描く。ロシアにおける不条理を作り出し、ナワリヌイを最も恐れているのは誰なのかを雄弁に語る1本。
6月17日(金)より新宿ピカデリー、渋谷シネクイント、シネ・リーブル池袋ほかにてロードショー(横浜未定)
(文:滝沢 三佐子)
スチール写真:(C) 2022 Cable News Network, Inc. A WarnerMedia Company All Rights Reserved. Country of first publication United States of America.
最近、東京外国語大学の「緊急ウクライナ語講座」を6回受講した。ウクライナ避難民を支援する自治体・法人向けの無料オンライン講座である。当協会も避難民支援のボランティア通訳をすることになっている。ただ、私には個人的に気になることがあった。私がロシア語しか話せないことである。ボランティアを志願しても、ロシア語だけでは避難民の方の気持ちにどこまで寄り添えるか分からない。せめて挨拶だけでもウクライナ語で話せるようになりたいと願い、年齢を顧みずに受講を申し込んだ。一日も早い終戦と平和な時代の到来を願いながら。
初回4月22日のオンライン講座受講者数は72人。多くは全国23都道府県の市や区役所などの外国人相談コーナー、多文化・共生関連の団体、交流協会、出入国在留管理局、難民センターなどの担当者であり、いくつかのPC端末の向こうで数人が聴講している雰囲気が伝わってきた。改めてウクライナ避難民受け入れのすそ野の広さを知る。
講師は中澤英彦・東京外国語大学名誉教授。ウクライナ語のみにとどまらずその風習、料理などについても話があり、90分の講座を毎回興味深く聴講した。最初にウクライナ語の歴史は受難に満ち、東部と西部ではかなり言葉がかけ離れていること、講座ではウクライナ西部の言葉を学ぶことが語られた。ウクライナ西部の言葉ならロシア語よりはポーランド語の影響が強いはず。また「ロシア語が分かる者がウクライナ語を勉強するとロシア語が話せなくなる」との講師の言葉あり。ウクライナ語とロシア語は同じキリル文字の同族語と言っても発音や語彙にかなりの違いがあるのだろうと想定する。どこがどう違うのか知りたくなったので、ロシア語とウクライナ語を比較しながら学んでみることにした。
まずは露語と宇語(ウクライナ語)のアルファベットを比較した。 露語に無い宇語の文字は ґ, є, і, ї と硬音記号のアポストロフィ。 また宇語に無い露語文字は э, ы, ъ, ё の4文字。宇語の є「ィエー」は露語の е に、宇語 е が露語 э にあたるようだ。 宇語の і「イー」は露語の и。そしてウ語の и は露語の ы。慣れるしかないようだ。 記号では硬音記号 ъ は宇語ではアポストロフィで、軟音記号 ь は共通。これで э, ы, ъ の3文字が宇語に無い理由が分かった。 面白いのは ё に代わる文字が宇語には無いこと。その代わり、露語に無い ї「ィイー」がある。 о の軟母音字は йо と書き、軟母音 і「イー」に軟子音 й がついたのが ї「ィイー」なのだ。これは発音が難しそう。 そして、ユニークなのは子音文字の ґ が「ゲー」で 、ロシア語と同じ文字の г は「ヘー」であること。この「ヘー」は無声なのかそれとも有声なのか?もっと発音の勉強が必要なようだ。
また、このような細かな差異は文字と発音だけでなく、文法にもかなりありそうなので、宇語と露語の違いを比較した資料を作ってみた。もちろん、6回で学べたのは初歩レベルなので、名詞・形容詞などの格変化、動詞の過去・現在・合成未来変化だけであるが、それでもロシア語に携わっておられる方に少しはお役に立てるかもしれないので、横浜ロシア語センターのサイトで近日中に発表する予定でいる。URLは下記の通り。
http://www.rosiago.org/
当然のことながら、6回の授業では学べなかったことは多い。複数格変化や動詞の完了体・不完了体、移動の動詞などにどのような違いがあるかはまだ分からない。また、どの言語も多くの時間を割き、かつ本気で取り組まねば習得は難しい。私の場合は78歳からの手習いだからなおさらである(それ故に最初は受講を躊躇した)。もちろん、ウクライナ語を習得できるとは思っていないが、今は受講して良かったと思っている。何よりもウクライナ語を多少なりとも使える可能性が出てきたことが有難い。この講座の受講機会に恵まれたことに心から感謝している。Дякую!(ありがとうございます)
(野口)
ロシアの姓についてひもといてみると、由来は父や祖父を表す「父称」が大半。実例もロシア語の特性上、男性形が基本形として記載され、同時に存在する女性形や複数形は女性や家族の話でなければ省略される。本稿もまた紙幅の都合でそれに倣わざるを得ない。だが人類の約半分は女性である。人は皆今のところ生物学的女性から産まれる。ロシアが家父長制社会であったとは言え、人々の姓に女性の足跡は残されていないのだろうか?
ニコノフ著『名前と社会』で姓の多様な原型が見られるとして紹介されている1671年のヤロスラヴリの課税台帳では、記載の3081人中女性は136人。世帯に成人男性がいない場合のみ夫を亡くした女性か未婚女性が登録されている。「寡婦アンニツァ、亜麻布商人ヤーコフの妻」と夫の名や職業で形容され、「ラヴレンチイの娘マリイツァ」と父の名(父称)が添えられ、「寡婦、アイロン職人ミハイルの妻」に至っては本人の名前すらない。17世紀後半の都市においても、女性が夫の名で表される例が85%、父の名では4%。個人名が記されたものが61%、ということは名無しが39%。納税者本人の名前くらい聞いて書いたらどうなのか。日本でも「菅原孝標女」など父の名しか残っていない平安時代の女流作家や、男性の名前だけが載り女性は「女」としか書かれていない家系図があったことを思い出す。
しかし家父長制に縛られた中ではあるが、女性の先祖を表す「母称」に基づく姓も僅かに存在する。まず夫を亡くしたか長く兵役に取られていた既婚女性が一家を養っていた場合。「寡婦の子」を意味するヴドーヴィン(ウクライナではウドヴェンコ)という姓も。また夫より財力があるか影響力が強い妻が支配する家庭でも生じた。母称は婚外子のみに付けられた説もあるが、ペトローヴナという父称で呼ばれた女性の子を示すペトローヴニンなどの姓からはその限りでないことが判る。父称での呼びかけは個人名や愛称よりも上位の敬意を表すとされていたが、昔の村では婚外子の母親を尊称で呼ぶことは叶わなかったからだという。
母称の由来は次の通り。教会聖人暦に基づく個人名(スサーニン、マリーニン=スサーナ、マリーナの子)、個人名由来の愛称(マルーシキン、ドゥニャーシン、カーチン=マルーシカ、ドゥニャーシャ、カーチャの子)、世俗名(リュバーヴィン=リュバーヴァの子)、あだ名(ミラーシキン=可愛い女性の子)、職業(ヴォロジェイキン=占い師の子、プロスヴィールニン=聖パン職人の子)、社会的身分(ボブィルキン=貧農の子)、夫の職業や身分(ソルダートキン=兵士の妻の子)、父称(アンドレーヴニン=アンドレーヴナの子)、「(夫の名)の妻」を表す呼称(ペトリーヒン=ピョートルの妻の子)、親族関係(バーブシキン=祖母の子、マーチェヒン=継母の子)。
上記に共通する語尾「~イン」は-а(ア)、 -я(ヤ)で終わる女性名詞から作る所有形容詞、すなわち後に姓に転じた母称の接尾辞だ。末尾が-а, -яの男性名から生じた父称と後の姓もこの形(ニキーチン、イリイン等)。男性形がМаринин(マリーニン)なら女性形は末尾にаをつけてМаринина(マリーニナ)となる。
二重に接尾辞のついたタチヤーニチェフという姓もある。これはタチヤーナの息子に呼びかける敬称にもなる母称タチヤーニチに、父称の接尾辞-ев(~エフ)が付いてそのまた息子の意味になり、タチヤーナの孫を表している。女性の先祖を示しながらも孫の代には父親を表す姓になっている。父系社会の中では母系の姓が現れても限定的で、いずれ父系に戻るべきと考えられていたのだろうか。
(横嶋 冬美)
参考文献:
В. А. Никонов ≪ИМЯ И ОБЩЕСТВО≫ (1974), ≪СЛОВАРЬ РУССКИХ ФАМИЛИЙ≫ (1993)(V. A. ニコノフ『名前と社会』、『ロシア姓氏辞典』)
現在、書店へ行けばロシアやウクライナ関係の書物がずらりと並んでいる。おそらくペレストロイカ以来の活況だろう。今月はその中から、現在のウクライナ侵攻の起点がチェチェン戦争にあるという論点を持つ『増補版 プーチン政権の闇 チェチェンからウクライナまで』(林克明著・高文研 本体1700円)と、そのチェチェン戦争が現在のロシアを揺るがし、ロシアの未来を投影する存在となっていることを論じた『ポスト・プーチン論序説「チェチェン化」するロシア』(真野森作著・東洋書店新社 本体2300円)を紹介する。
前者は、2007年に出版された『プーチン政権の闇』の増補版。プーチンが第二次チェチェン戦争後に取り始めたジャーナリズム敵視・政敵の暗殺・国際協調と逆行する動きが、現在のウクライナ侵攻を準備してきたと指摘する。初版はちょうど安保法制制定時期に書かれていたため、ロシアの強権化を日本へ戒めと受け止めていたが、増補版ではロシアの強権化に「世界は気づくのが遅すぎた」と言い切った。プーチン政権の誕生から国際秩序を転換させた今回のウクライナ侵攻へのプロセスは、一見複雑だが、1995年からチェチェンを取材してきた林氏の論調はわかりやすい。
後者は、ロシアとチェチェンの関係―プーチンとカディロフの関係に注目し、二度に渡る凄惨な戦争から大復興を遂げたチェチェンが、なぜロシアの忠実な僕になり、同時にロシアを凌ぐ強権体制となっていったかを分析する。ロシアはチェチェンの過激さ・国際的異質さを後追いするのではないかと筆者は語る。本書はウクライナ侵攻前の刊行だが、ロシアの「チェチェン化」という現象に戦慄すると同時に、なぜチェチェンから破壊工作に長けた部隊が出ているのか、ウクライナ義勇軍として闘うチェチェン人がいるのかを我々は知ることになる。真野氏はロシア特派員を経た毎日新聞記者。
(滝沢)
バレエ音楽『白鳥の湖』。その中の「情景」は、あまりにも有名な曲です。あの哀愁をおびた旋律に切なさを感じ、心惹かれる方も多いのでは…。ロシアが誇る、チャイコフスキーの名曲ですね。
さて、そのチャイコフスキーの偉大さを物語る出来事が…。”その死に際して皇帝アレクサンドル3世が埋葬費用を皇室で負担しただけではなく、花輪を贈り、さらに葬儀に軍楽隊を派遣し、それが一市民のために演奏した初の例だった”(『ビジュアル版バレエ・ヒストリー』芳賀直子著)と、あります。バレエ『白鳥の湖』は毎年、必ず世界中の何処かで上演されます。チャイコフスキーの祖国ロシアでは、『白鳥の湖』が「一番有名なクラシック音楽」なのだとか…。それは、バレエの本場ロシアだから、という訳ではないようで。ちなみにバレエの発祥はイタリア。「バレエはイタリアで生まれ、フランスで開花し、ロシアで成熟した」と言われます。
では、ロシアで『白鳥の湖』が一番有名な理由とは。”ソ連時代から通じて『白鳥の湖』は政府要人が亡くなった時に、テレビで流れるからなのだとか。権力闘争などを配慮してか、要人が亡くなったその日にニュースには出ないけれども、代わりに『白鳥の湖』が流れる…。1991年8月のソ連保守派のクーデター時も、朝から晩まで『白鳥の湖』が流れ、「あ、また何かあったな」と思ったのだそうです。”と、松田亜有子氏は著書『クラシック名曲全史』の中で、おしゃっています。
私は思います。「今度、ロシアで『白鳥の湖』が一日中聞こえてくる日は、いつ来るのだろうか…。」『白鳥の湖』本当は、とても美しい曲なのですが。
(とくなが なつみ)
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